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名古屋高等裁判所 昭和49年(ネ)319号 判決 1977年10月25日

控訴人(被告) 三重県

被控人(原告) 西出剋已 外一七名

主文

一(一)  原判決中被控訴人篠田光雄、同服部要に関する部分を取消す。

(二)  右被控訴人らの請求を棄却する。

二(一)  原判決中、被控訴人西出剋已、同小西旭、同村林史郎、同福森明允、同滝川弘、同吉村英夫、同岡島久司、同大森英明、同大西昭、同伊豆晃、同西口光、同小沢利明、同中筋美代及び同吉森茂雄に関する部分を左のとおり変更する。

(二)  控訴人は右被控訴人らに対し、別紙当審認容額一覧表合計額欄記載の金員及び内同表時間外勤務手当金欄記載の金員に対する昭和四三年四月一九日から、内同表付加金欄記載の金員に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  右被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  被控訴人長崎拓夫、同伊東格郎に対する本件各控訴を棄却する。

四  訴訟費用中、控訴人と被控訴人篠田光雄、同服部要との間に生じた分は、第一、二審を通じ同被控訴人らの負担とし、被控訴人長崎拓夫、同伊東格郎に対する控訴費用及び控訴人とその余の被控訴人らとの間に生じた分は、第一、二審を通じいずれも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中、控訴人敗訴の別紙不服申立部分一覧表記載部分(明細は別紙不服申立部分明細表記載のとおり。)を取消す。被控訴人らの本訴請求中、右一覧表記載部分の請求を棄却する。同表記載部分の訴訟費用に限り、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、左のとおり付加するほか、原判決事実摘示中、控訴人及び被控訴人らに関する部分の記載と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決一五枚目表四行目中の「大西昭、」の次に「同岡島久司、」を加える。)。

(控訴代理人の主張)

原判決には別紙不服申立部分明細表記載の点につき、以下のごとき事実誤認、法令解釈の誤りがある。

一  被控訴人西出剋已(右明細表1)について

本件生徒の引率付添は、高校教育と直接関係のない熱田神宮奉賛会主催熱田神宮奉納高校相撲選手権大会の招待に応じ、伊勢工業高校相撲部が参加したことに伴ない、被控訴人の自発的意思に基づきなされたもので、校長の命令に基づくものではない。原判決が援用する出張決裁簿(甲第二号証の一)は正規の出張命令簿ではなく、同簿中の校長の認印は、校長の出張命令を裏付けるものではない。

二  被控訴人小西旭(同表2)について

高体連主催大会における審判業務は、高体連において業務遂行能力を具備する適格者を選定し、個別的に委任するもので、教職員の地位に当然に関連するものではなく(現に審判員に多数の民間人が委任されている。)、教員の職務の範囲に入るものではない。本件の場合も、被控訴人が審判員としての適格性を有すると高体連から認められ、高体連から審判員として委任され、これに任意応じたもので、校長の命令によるものではない。

三  被控訴人篠田光雄(同表3)について

農業クラブ上級位検定試験委員は、三重県農業クラブ連盟が主催実施する上級位技術検定試験のため、同連盟の判断のもとに選定委嘱されるものであるところ、ただその手続を円滑に進めるため、校長に対し委嘱方を通知し、これに協力することを要請しているもので、当該校長から試験委員になることを命令するものではない。

四  被控訴人村林史郎(同表4)について

本件地区バレーボール協会主催大会については、校長が右大会に参加することに教育的意義を認め参加を承認した事実はない。原判決が援用する分校旅行命令簿(甲第五号証の一)によつても校長の認印はなく、同簿はむしろ校長が参加を承認していないことを示すものである。

五  被控訴人服部要(同表5)について

本件野球練習試合は、クラブ内の練習試合で当日予定されていた他校との対外試合が雨天のため中止となつたところから、被控訴人が選手強化目的のためその熱意から自発的に実施したもので、教員の職務とみなされるべきクラブ活動ではなく、もとより校長の命令に基づくものではない。

六  被控訴人大西昭(同表6)について

本件各ソフト部試合生徒引率について校長が命令した事実はない。原判決が援用する校務日誌(甲第八号の一、五、七及び一二)の校長の認印は、校長の命令を裏付けるものではない。

七  被控訴人福森明允(同表7)について

被控訴人の勤務する学校には当時正規の英語クラブは存在せず、かつ、本件英語弁論大会は、松阪女子短期大学主催にかかるものであり、学校の教科あるいはクラブ活動と密接な関連を有するものとは認められない。

八  被控訴人伊豆晃(同表8)について

明細表(1)ないし(7)のバドミントンクラブ合宿指導は、学校内でのそれが認められなかつたため、被控訴人が選手強化目的のため自主的に校外の施設を利用し、クラブ員中の希望者のみの自主参加により実施したもので、学校教育としてのクラブ活動の性質を有するものではない。また、同表(8)の三重県バドミントン協会主催の大会は、主催者たる協会が高校生以外の一般男女愛好者も参加して構成されており、少年少女の部、青年の部、壮年の部として区別され、右区別に従い選手権も分かれており、大会に参加した生徒も、個人競技者としてそれぞれ個人で自主的に参加しているものであつて、いわゆる学校教育としてのクラブ活動の性質を有するものではない。

九  被控訴人滝川弘(同表9)について

本件のいずれの場合も、校長が命令をした事実はない。ことに簿記クラブのキヤンプは、クラブ本来の活動と関係のないレクリエーシヨン的性格の強いものであり、クラスキヤンプも、ホームルーム活動に不可欠のものではなく、一部生徒の発意により計画されたもので、被控訴人はいずれも自主的にこれに参加したものにすぎない。

一〇  被控訴人西口光(同表10の1・2)について

原判決認定によれば、被控訴人は修学旅行中六日間昼夜を問わず連続して勤務したことになるが、校長あるいは分校主事が不寝番制やその交代制を採用したことはなく、かつ、これを命令したこともない(仮に命令があつたとすれば船、車中泊の場合のみである。)のであるから、事実誤認のあることは明白である。

一一  被控訴人吉村英夫(同表11)について

本件弁論大会は、松阪高校主催文化祭の一行事であり、全くの任意参加形式によるものであつて、参加生徒も一部生徒にすぎないもので、正規のクラブ活動と評価しうるものではなく、もとより校長の命令があつたとも認められないものである。

一二  被控訴人小沢利明(同表12の1・2)について

本件各種大会の付添について校長の命令があつたとは認め難く、ことに対外庭球部試合自体、学校の教育活動としてなされたものとは言い得ないものである。

一三  被控訴人中筋美代(同表13)について

本件についてもいずれも校長の命令あるいは承認はなく(旅行伺簿への認印は命令等を裏付けるものではない。)、ことに、国際試合前座試合に出場した選手は、個人として学校外の団体から選抜され出場したもので、学校教育としてのクラブ活動に全く関係がないものである。

一四  被控訴人吉森茂雄(同表14の1・2)について

明細表(1)ないし(5)のクラブ主催の各試合は、サツカー部又は被控訴人自身が、選手強化目的の観点から自主的に計画実行したもので、学校の特別教育活動とは何ら関係のないもので、その付添指導等は職務に該当しないものである。なお右(2)については、当日(五月三日)が祝日であり、時間外勤務手当請求の対象とならない日であることを看過している。

一五  被控訴人岡島久司(同表15)、同長崎拓夫(同表16の1・2)、同伊東格郎(同表17)について

いずれも前記吉森の場合と同じく、同人らの付添指導等は職務に該当するものとはいえない。ことに右伊東についての明細表17・(1)の試合は、民間の社会人チームを相手とするもので、かかる場合まで「クラブ活動として必要かつ有益なものである」とはとうてい認め難い。

一六  被控訴人大森英明(同表18)について

本件各水泳大会に参加した生徒は、いずれも個人としての資格で参加しているもので、学校(特別)教育活動としてクラブ活動の性質を有するものではない。

なお、以上のところに関し、原判決が校長の命令ないし承認の存在について、各本人尋問の結果のみをもつて認定した点及び旅行命令簿、宿日直日誌、出張決済簿等への校長の認印は、直ちに校長の命令あるいは承認を裏付けるものとはならない(これらの帳簿は、各種大会等へ付添等として参加した教師に対し、P・T・Aが独自の見地から一定の金員を支給する慣行に基づき、その事務処理を事実上校長に委託しているため、該事務処理の正確を期するため備えつけていた一種の事実確認のための備忘録的性質を有するもので、単に右付添等の事実を校長が確認していることの証左たりうる程度のものにしかすぎない。)のに、これをもつて右命令ないし承認の根拠としている点は、いずれも証拠の取捨判断を誤つたものといわなければならない。

(被控訴代理人の主張)

一  本件控訴は、クラブ活動における超過勤務についてのものがほとんどであるが、控訴人の主張は高等学校教育におけるクラブ活動に対する誤まつた認識・評価に基づくものと言わざるを得ない。

(一)  クラブ活動は文化的なもの、体育的なもの、生産的なもの等、その種類、内容、態様は様々であるが、高等学校にあつては、いずれも特別教育活動の一環として学校教育の重要な部分を占めるものである(なお、高等学校の教育課程は、教科・特別教育活動・学校行事によつて編成されている。)。

クラブ活動は、右記のような内容をもつから、その範囲も狭く限定すべきではなく、例えば、練習試合、合宿等は、対内的なものであれ対外的なものであれ、クラブ活動の一部と認められるし、各種大会参加もクラブ構成員全員でなされようと、あるいはその一部でなされようとクラブ活動であることに変わりはないのである。

なお、クラブ活動のうちいわゆる対外的活動は、クラブまたはそのクラブに属する一部の生徒が、学校代表という形で平素熱心に研究努力した成果を発揮するよい機会であるし、それは一層の知識・技能を向上させるきつかけとなり、かつ、他の生徒にもクラブ活動に対する関心や理解を深めるよい影響を与えるもので、当然クラブ活動の一環として捉えられるべき性質のものである。

(二)  そして、クラブ活動の指導にあたる教師に要求される姿勢は、

1 教師も同好の仲間の一人として、クラブの一員として、加わりながらも、しかも、活動を内面から方向づけたり、適切な援助を与えること。

2 教師の熱意や人格がクラブの生徒に及ぼす影響は大であるから、教師自身が常に暖かい民主的な態度でのぞみ、生徒に信頼される指導者となるように努め、できれば、教師自身がその活動を生徒と一諸にやるようにすること。

などで、クラブ顧問となつた教師は、クラブ活動のあらゆる面で常に適切な生徒指導を怠らないようにしなければならないのである。

(三)  高等学校におけるクラブ活動の現実は、教職員の勤務時間外に及ぶのが常態になつているし、また、十分な教育成果をあげるためには勤務時間を超過して活動することもやむをえないものと言わざるを得ない。

(四)  さて、各学校においては各年度はじめにあたり、教育計画並びに校務分掌を定め、当該校長から各教職員に対しそれぞれ委嘱する。委嘱された分野の勤務については校長から年間を通して包括的に明示又は黙示の命令が出されたものと理解すべきものである。また、校長においても右のように理解しているから、発生する個々の具体的諸問題についてはその都度改めて明示の命令を出さないのが通例である。

校務分掌の結果クラブ顧問となつた場合についていえば、ある活動が当該クラブ活動の範囲内と認められる限り、それが勤務時間を超過する場合であつても、校長の命令が出されているものと理解すべきである。そして、被控訴人らは校務分掌としてそれぞれクラブ顧問を命ぜられ、クラブ活動の指導にあたつたのである。また、超過勤務に及ぶ個々具体的なクラブ活動の場合にその都度校長の命令を事前に得るのではなく、むしろ、本件各事案のような態様で校長の命令を得てこそ学校教育におけるクラブ活動の望ましい姿があるといつてよい。

なお実際には、被控訴人及び生徒が対外的活動として各種大会に参加することを決定するには校長の命令がなければ不可能である。各被控訴人が当該クラブ顧問として校務分掌を担当し、それを職務の一部としていることはそれぞれの校長が熟知している。その職務を遂行すべく当該大会に出場することを校長に求め、その承認、すなわち、出張命令を得る。このような手続によりはじめて当該大会参加が可能となる。この場合、一般の官庁等とちがい当該大会に参加することを職務命令として一方的に発せられるシステムになつていないのが学校教育推進上の特殊性であり、その保障が教師の教育権と生徒の学習権の確立につながつているのである。

(五)  控訴人は出張決済簿、校務日誌、旅行命令簿、宿日直日誌等が正規の出張命令簿ではなく、右各文書から職務命令性を認めることはできないと主張するが、以下のとおりその主張には理由がない。

1 出張命令簿と認められるものが二種額あるとしても、出張を命じる行為、生徒の扱い、教員の勤務上の扱い、旅費、日当の算定及び支給において両者に何ら区別がなく、その効力は全く同じである。また、勤務を命ぜられる者にとつてどちらの出張命令簿によるのかは全く関知しないところである。

2 また、被控訴人らの出張に対し、P・T・Aから実費弁償的な金員が支払われることがあつても、教員の教育活動にかかわる出張に対し、P・T・Aの金員を支給することは根本的な誤りであり、本来控訴人が負担すべきものである。たまたま教育財政の貧困等からこれらを生徒の父母等に肩代わりさせているにすぎない。

3 仮に、出張旅費等の費用の出所の差異その他の理由から、出張命令簿、会計帳簿などを区別しているとしても、これによつて、被控訴人らの勤務性に差異を生ずべき筋合のものではない。

したがつて、出張関係の各文書に校長の認印があることから直ちに校長の出張命令があつたと評価し得るものではないという控訴人の主張は、本末を転倒した無意味な主張である。

現実にも学校現場では出張の旅費日当をいずれより支出するかについては明確・妥当な根拠はなく、また、かかる認識に立つて運用しているわけではない。公費としての予算額、P・T・Aの援助額などから、便宜各勤務を振り分けているにすぎない。例えば、教員が教師研修のため出張する場合に、いわゆる正規の出張命令簿を使用しながらその金員の支出をP・T・A教科別研究会、文部省等に求めているのは多くの現場における実態である。

(六)  以上、勤務性、職務命令性につき一般官庁とは異なる学校の特殊性を考慮したうえで本件各超過勤務について考えるとき、クラブ活動が勤務時間外に及ぶ場合は事前にいちいち明示の校長の命令を得なければそれは勤務性、職務命令性を欠くとの見解は、いかにクラブ活動の実体を無視し、かつ、学校教育におけるクラブ活動の地位・機能を軽視しているかが明らかとなる。ひいては、教育基本法、学校教育法の精神に反するものと言わねばならない。控訴人の主張はそもそも学校教育に対する基本的な考え方に誤まりがあるものである。

なお、以上の考え方はホームルーム活動についても妥当するものである。

二  被控訴人西出剋已について

(一)  控訴人は、「原判決は出張決裁簿(甲第二号証の一参照)への当該校長の認印の存在をもつて直ちに、同校長の命令があつたものと判断している」と主張するが、原判決は甲第二号証の一のみをもつて右命令の存在を認定しているのではない(判決書理由五(二)参照)のであつて、そもそもこの点で控訴人の主張は根拠を失う。

(二)  控訴人は、控訴人とは別個の高校教育とは直接関係のない団体が主催する大会に参加したもので、被控訴人西出の引率付添は同被控訴人の自発的な意思にもとづきなされたものであり、校長の命令にもとづくものではないと主張する。

しかし、原判決は、本件大会は「校長宛に大会案内状が送付され、校長が同大会参加の教育的効果を認め、被控訴人西出……らに大会参加の選手を引率し付添うことを事前に命じ、あるいは事後に承認していることが認められ」るとしているのである。もし控訴人の主張を認めるとしたら、県と別個の団体たる文部省、教科研究会、校長会等が主催する各行事に参加することを校長は命令したことがないかと反論せざるを得ない。校長は、大会の主催者がどこであれ、通常の教育活動であるとの判断に立ち右各行事に参加することを命じて来たのである。本件大会参加もまた然りであること、前記クラブ活動の目的・内容等を考えれば明らかである。

(三)  教育目的にかなう教育活動に参加させた責任はP・T・Aにあるのではなく控訴人にあることを自覚すべきで、P・T・Aが謝金を出していることをもつて校長の命令の不存在を理由づけようとするのは、控訴人が自らの教育行政の貧困さをP・T・Aに転嫁しようとする無責任な態度で、本末転倒と言わねばならない。

(四)  前記のごとき学校運営の特殊性を考慮すれば、当該校長が承認したことと出張を命じたこととは同義に解すべきである。出張日時以後において校長が押印したことは、当該校長の命令に従い原告が出張を済ませた事実の再確認と解するのが妥当であり、その証拠が謝金なるものの支給であると解する。

三  被控訴人小西旭について

控訴人は、高体連主催の大会の計画・運営と同大会の審判とを分離して考えようとするが、控訴人の主張は次のとおり理由がない。

(一)  右大会の運営に競技審判は欠くべからざるもので、審判のみを分離独立して捉え得るものではない。

もし、教職員の資格等を有しなくても審判ができるから審判は教職員の職務ではない、という控訴人の論理をそのまま進めれば、右大会の企画・運営は教職員の資格が無くてもできるのだから右企画・運営にあたることも教職員の職務ではない、と言わざるを得ず、およそ実際とかけ離れた奇妙な結論となる。

大会運営と審判とは不可分の関係にあるといつてよく、控訴人の主張は争いのための主張にすぎない。

(二)  たしかに、審判業務は高度の技術的、専門的知識・能力を必要とするが、右大会は役員たる校長、教職員らによつて教育的配慮のもとに企画運営され、正課の体育、校内競技、クラブ活動と密接な関連を有するものであるから、審判も教職員によつて行われるのをその本来の姿とするものである。たまたま、高度の技術的、専門的知識・能力を有する教職員が少ないため、教職員以外の者にも審判を委託しているにすぎない。

四  被控訴人篠田光雄について

控訴人は、農業クラブ上級位検定試験委員は三重県農業クラブ連盟から個々の教員に対し独自に委嘱されるもので、当該学校長はこれに事実上協力したに過ぎないと主張するが、農業クラブ活動は農業科教育課程のなかに位置づけられており、県教育委員会の指導も受けている。また、クラブ員は農業科に学ぶ生徒全員加入が強制的に行われており、その検定も商工会主催の珠算検定の如く趣味に依拠するものとは本質的に異なるものである。従つて、右連盟の活動は高等学校教育における実習に準ずるものと解すべきであり、原判決の認定のとおり、「右試験委員としての活動は教師の職務に属し、校長の命令に基づくもの」というべきである。

五  被控訴人村林史郎について

本件バレーボール大会参加の意義については前記一(一)のとおりである。従つて、たまたま分校旅行命令簿に当該校長の認印を欠くからといつて原判決の正当性を失わしめるものではない。

六  被控訴人服部要について

(一)  野球において、当該学校のクラブ内の練習試合と他校との練習試合とは所要時間にほとんど差異がないことは経験的に明らかである。原判決が「他校との練習試合、クラブ合宿、等」としたのは本件のような場合を想起してのことと考えられ、控訴人の主張は合理性を欠く。

(二)  当該練習試合がクラブ活動として必要かつ有益であるかの判断もクラブ活動の本旨からなすべきであつて、単に雨天であるからとの理由で必要性、有益性を欠くに至るものではないことは当然である。

七  被控訴人大西昭について

校務日誌の性質に関しては、前記一(五)のとおりであり、また事実誤認の主張についても理由がない。

八  被控訴人福森明允について

生徒の自主的な活動を尊重するクラブ活動において、控訴人主張のような意味で「正規」なクラブであることは必要とせず、いわゆる同好会的なものでも十分であると解すべきである。

また、本件英語弁論大会が松阪女子短期大学主催であるた点についてもクラブ活動として評価することを妨げるものではない。

そして、当該英語弁論大会の参加者、内容に照らせば、原判決の判示のとおり、学校の教科あるいはクラブ活動と密接な関連を有するものであること明白である。

九  被控訴人伊豆晃について

バドミントンクラブ合宿指導について、チームワークを図り技術向上のため自主的に合宿をなすことがクラブ活動でないとする控訴人の主張は、クラブ活動に対する誤つた認識、評価に基づくものである。また、県バドミントン選手権大会への生徒引率の点についていえば、高校生以外が参加しているから、あるいは個人競技であつたからといつてクラブ活動の性質を欠くに至るものでないことは、例えば国体に参加する場合あるいはインターハイの個人競技に参加する場合等のことを考えれば明らかであり、控訴人の主張は失当である。

一〇  被控訴人滝川弘について

簿記クラブ活動は、簿記の勉強のみであると限定する考え方はクラブ活動の本質を認識しないものである。本来のクラブ活動のあり方からすれば、本件のキヤンプは簿記クラブ活動の範囲内のことであり、被控訴人の付添は勤務性を有する。また、クラスキヤンプも同様である。むしろ、いずれも生徒の自主的活動のあらわれとして好ましい形態といえる。

一一  被控訴人西口光について

控訴人の主張は、修学旅行における生徒の引率・付添に対する誤解に基づくもので、理由がない。

控訴人は、不寝番をしてはじめて勤務したことになるかの如く解している。しかし、付添教師は修学旅行の出発から帰着までの間、絶えず生徒の行動を掌握し、危険防止、健康管理等に細心の注意を払うとともに、修学旅行についてはその教育目的が達成されるよう生徒の指導、監督を行つているのであつて、車中や旅館においても付添教師の右注意義務等が軽減されるものではない。付添教師が途中就寝するのは修学旅行の期間中、右勤務を全うするためにも当然のことで、厳格な不寝番制をとらなくても右期間中は実質的に精神的・肉体的拘束を受け続けるのである。

一二  被控訴人吉村英夫について

当該弁論大会が、他校主催で任意参加形式をとつており、参加生徒が一部の生徒であつても(当然のことである)、該大会参加をもつてクラブ活動の一環と評価し得ることは前記一(一)のとおりである。

一三  被控訴人小沢利明について

前記一(一)のクラブ活動のあり方に徴し、各対外庭球部試合が学校教育活動としてなされたことは明らかである。

一四  被控訴人中筋美代について

(一)  旅行伺簿については、すでに述べたとおりである。

(二)  大会出場選手が選抜されたのはハンドボール部におけるクラブ活動の成果であり、いわば、ハンドボール部の代表として強化練習に参加したものである。従つて、被控訴人の付添に職務性を認めた原判決は正当である。

一五  被控訴人吉森茂雄、同岡島久司、同長崎拓夫、同伊東格郎、同大森英明について

(一)  右各被控訴人いずれについても前記一(一)ないし(四)で述べたごとく、クラブ活動のあり方、指導教師のあり方に徴し、職務行為と認められるべきことは明らかである。

(二)  なお、被控訴人吉森について、控訴人は祝日であるから時間外勤務手当請求の対象とならないと主張するが、祝日であつても、現実に時間外勤務をした事実があれば、右勤務に対応して時間外勤務手当が支払われねばならないものである。

以上、控訴人の主張はいずれも理由がなく、本件控訴は棄却さるべきである。

(被控訴代理人の主張に対する控訴代理人の反論)

被控訴人らは、「クラブ活動」について種々主張しているが、これらの主張は、いずれも正規のクラブ活動の意義を誤解ないしは不当に拡張しているものと言わなければならない。

元来、いわゆる特別教育活動とは、教科、学校行事等とともに学校教育課程を編成する(学校教育法施行規則参照)ものであり、生徒等に対する授業を構成する主要な柱として位置付けられているもので、具体的には、ホームルーム、生徒会活動およびクラブ活動に分けられ、そのいずれもが「生徒の自発的な活動を通じて、個性の伸展を図り、民主的な生活のあり方を身につけさせ、人間として望ましい態度を養う」ことを共通の目標としているのである。

そして、右にいうクラブ活動すなわち正規のクラブ活動の内容としては、

「クラブは、学年の所属を離れて同好の生徒をもつて組織するものとし、それぞれ次のいずれかに属する活動を行う。

(1)文化的な活動、(2)体育的な活動、(3)生産的活動、(4)その他の活動」(高等学校学習指導要領等参照)

があるとされているが、前記目標の趣旨からして、正規のクラブ活動は、全生徒の自主的、自発的な参加にもとづく全体として調和のとれた分類すなわち全生徒の個人差や個性に応じた各種のクラブがバランスある形で用意され、生徒の成長発達に寄与することができるものでなければならないのである。仮りにも、ある種の方面のクラブ活動のみか、また対外的な活動に優秀な成績を得ることを目ざしてクラブ活動の指導を特定の部員=代表選手の活動のみに重点をおくがごときは、正規のクラブ活動の本質をそこなうものと言うべきである。

また、正規のクラブ活動が学校における教育課程の一環として位置付けられている限り、それが生徒の自発的活動を助長することを建前としているとしても、それは生徒の活動を放任しておくことではなく、教師において他の教育課程との関連に留意し全体的な指導それも適切な教育的指導がなされなければならないのである。熱心さの余り活動に行き過ぎがあつてはならないのである。いわゆるクラブ活動と称されるものが往々にして陥りがちな、ただひたすらに対外的活動成績の優秀さを競うあまり、そのことのみを活動の中心方針とし、活動時間を多くし過ぎたり、特定の部員のみに技術向上等に重点をおいたりしていることは、正規のクラブ活動の本質から逸脱しているものと言わなければならないのである。従つて、正規のクラブ活動のあり方としては「クラブ活動には、生徒の自発的な意思によつて、全校の生徒が参加するよう配慮すること」(前掲要領参照)が望まれるのである。

正規のクラブ活動が教育としてなされなければならないことは、前記のごとく、それが教育課程としての特別教育活動の一分野である以上当然のことであるが、また他の教育課程とのバランスすなわち教科が他の教育課程に比し質量ともその中心とならなければならないことは理の当然であるから、これより従たる位置にあることも明らかであると言わなければならない。身心の発達が未だ充分でない段階の生徒にとつて、クラブ活動のために望ましいと通常されているよりも多くの時間(日曜祭日その他平日の例えば午後五時以降)拘束されるとすれば、教科の習得に著しい支障をきたす(学力低下)ことは容易に予測し得るところであり、このような生徒の身心の条件を無視した活動は、教育がその効果として期待するところではないのである。

さらに、このことは、生徒の教育に携わる教師の勤務時間の関連すなわち労働者保護の観点からも法の望むところではないと言うべきである。もし、正規の勤務時間外になされるべきクラブ活動があるとすれば、それは教師個々人の熱意や好意から出た社会教育ないし社会体育の範囲に属せしめることが妥当であろう。

従つて、本件のごとき、被控訴人主張のクラブ活動としての勤務時間外勤務は、特別の事情がない限り正規のクラブ活動に伴なうものとは評し得ず、いわゆる単なる部活動に過ぎず、教師の職務の範囲を逸脱したものと言わなければならない。

右主張の勤務時間外勤務についての判断に当つては、その外形や結果のみに囚われてはならないのであり、そのクラブ活動の目標、内容、指導計画性等を総合的に吟味し、真に学校教育の一環として認め得るか否かの観点からなすべきである。

教師個々人のクラブ活動に対する熱意や好意に対する事実上の評価と法律上の評価と混同してはならないのである。

(証拠関係)<省略>

理由

当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は、左のとおり付加訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、右理由説示中、被控訴人らに関する部分をここに引用する。

原判決二五枚目表七行目中の「前段」を「前項」と訂正する。

同二九枚目表四行目中の「26の(1)ないし(5)、」を削除し、同表末尾から二行目の「採用するをえない。」の次に「しかしながら、別紙不服申立部分明細表(以下明細表という)10の1・(1)ないし(5)掲記の被控訴人西口光の場合については、同人の原審における本人尋問の結果によると、本件修学旅行に際しては、分校という事情もあつて不寝番については車中泊及び船中泊の場合を含め特段の指示命令はなく、四名の付添教師中、被控訴人ともう一名の若い教師が主となり、適宜自主的にこれにあたつていたというのであるから、これと当審証人丹羽武の証言とを併せ考えると、同被控訴人の場合校長(又は分校主事)において船、車中泊の場合を含め不寝番を命じた事実はなくしたがつて右(1)ないし(5)のうち各二二時から翌五時までとある分(勤務時間合計三五時間)は時間外勤務手当支給の対象にはならないと認められる。」を加える。

同三〇枚目裏一行目中の「校長が」から同三行目末尾の「である。」までを、「校長が当該大会の主催者、大会の目的、参加対象となる選手の関係その他諸般の事情を併せ勘案し、当該大会に参加することに特別教育活動の一環として教育的意義を認め、教師の本来の職務に属することがらとして参加の承認をしている(黙示の承認があつたと解される場合を含む。)と認められる限り、前記高体連主催の場合と同様に参加選手の引率、付添は教師の職務に入ると解するのが相当である。」と改め、同五行目末尾の「第五号証の一、二」を削る。

同三一枚目表末尾から二行目中及び同裏五行目中の「同村林史郎、」を削り、同裏四行目中の「送付され」の次に「ているものであるところ(被控訴人らに関し、後に認定説示する部分は別として)、少なくとも右のうち高体連(上部団体を含む)関係及び上野市教育委員会等主催の大会並びに伊賀地区高校球技大会については、」を加える。

同三二枚目表二行目中の「右」の次に「高体連(上部団体を含む)関係及び上野市教育委員会等主催の大会並びに伊賀地区高校球技大会等の」を加え、同三行目末の「いうべきである。」の次に左の部分を加える。

「しかしながら、(イ)被控訴人西出剋已の明細表1・(1)及び(2)の場合は、当該大会が高校教育に全く関係のない宗教法人熱田神宮の奉賛会主催の奉納相撲、(ロ)被控訴人村林史郎の明細表4・(1)の場合は、成人をも対象としている南勢地区バレーボール協会の主催の試合(原審における被控訴本人尋問の結果)、(ハ)被控訴人伊豆晃の明細表8・(8)の場合は、一般社会人も参加している三重県バドミントン協会が主催する選手権大会の少年少女の部の試合(原審証人千田軍二、同出口健正の各証言)、(ニ)被控訴人滝川弘の明細表9・(1)及び(2)並びに被控訴人大森英明の明細表18・(1)ないし(5)の各場合は、いずれも一般社会人も参加する水泳協会主催(原審における被控訴人滝川弘本人尋問の結果及び弁論の全趣旨)の選手権大会等であり、(ホ)被控訴人小沢利明の明細表12の1・(1)の場合は、朝日杯ダブルス庭球の試合、(ヘ)被控訴人中筋美代の明細表13・(2)の場合は、ハンドボール協会主催のハンドボール国際試合前座試合であつて、いずれの場合も、主催者の点からしても学徒を対象とする対外競技の主催者として、三重県教育委員会の通達(甲第三二号証)の基準と合致しない疑いがあるのみならず、当該大会の目的、各大会の参加対象、参加資格等も証拠上明らかでなく(前記中筋の場合は弁論の全趣旨に徴すると、クラブとしての出場ではなく、唯一名の生徒のみが選抜選手として参加したにすぎないと認められる。)、これら各大会への生徒の参加が高等学校における教科活動又は特別教育活動若しくは学校行事等といかなる関係を有するのか証拠上明らかにされない以上、各被控訴人らの右生徒への付添ないし引率が、当然に同人らの本来の職務行為に属する事柄であると断ずることはできない。(ト)次に、被控訴人小沢利明の明細表12の1・(2)、(3)、(5)及び(6)並びに被控訴人吉森茂雄の明細表14の2・(6)の場合は、いずれも国民体育大会出場選手引率(右12の1・(2)、(3)は同地区予選出場選手引率)であり、右大会への出場が前記通達でも例外として取扱われている点において前記各大会といささか趣を異にするものといわねばならないが、右大会はそもそもスポーツの振興、普及、発達とアマチユア精神の高揚をはかり明朗な国民生活を建設しようとするもの、いうなれば国民体育の向上を目的とするもので、日本体育協会、文部省、都道府県の共催にかかり、都道府県の対抗形式によるものであつて(公知の事実というべきである)、当審証人庄山一夫のいうごとくいわゆる社会体育に属するものと認められるから、本来学校における教科ないし特別教育活動等の一環としてなさるべきものとは解し難く、したがつて、生徒の国体への選手としての出場がこれらといかなる関係に立つものであるかの点について明確な立証のない以上、これもまた前同様同人らの本来の職務行為に属する事柄であると断ずることはできないというほかはない。

なお、以上の各場合に関し、甲第二号証の一、第五号証の一、第一一号証の二、第一五号証の七、第一六号証の六、第二二号証の一ないし三、第五九号証の一、八及び一一(出張簿、出張命令簿、旅行命令簿、復命書等)等に校長(分校の場合は分校主事、以下同じ。)の認印があることはこれを認めうるが、他方成立に争いなき乙第一号証、第二号証、第六号証、第七号証、第一二号各証、原審及び当審における証人三田尚の証言並びに弁論の全趣旨によれば、昭和二三年以来文部省では教職の態様と勤務の特殊性を理由に入試事務、学位論文審査等特定の場合を除き教育職員には超過勤務を命じないことをたてまえとし、超過勤務手当の財源措置をせず同手当を支給しない政策ないし行政指導をすすめており、控訴人三重県においてもこれをうけて、公立学校職員の給与および手当の支給に関する規則において、教育職員に対する時間外勤務手当および休日勤務手当は、入学者選抜事務その他県教育委員会において特に認めた勤務に従事した場合に支給すると規定し、県教育委員会から校長に対して、時間外勤務等を命ずる場合は、右規則等に従つてこれをなすべき旨を一般的に指示していたこと、それゆえ本件当時本訴の対象となつた各事項に関しては、校長はもとより教員の側においても、それが本来法律上時間外勤務手当支給の対象となるべきものであるか否かについて、明確な問題意識を欠いたまま各学校の内規、規程等に則り、旅費日当等の請求支給をなしていたことが認められる(しかして、その財源の多くはP・T・Aからの資金である。)。したがつて、かかる各高校の出張、旅行命令等のあり方ないし実状等に徴すると、前記各帳簿類に校長の認印があるからといつて、そのことから直ちに校長が前記大会等に参加することに教科ないし特別教育活動の一環としての教育的意義を認め、参加生徒の引率、付添等が教師の職務に属するとして時間外勤務を命じたものと推認することはできないものといわなければならない(このことは後に認定説示するその余の不服申立明細表記載の各事項に関しても同様である。)

したがつて、以上の各場合については、結局本件全証拠によつてもこれが教師本来の職務に属することがらとして校長の勤務命令に基づいてなされたものとは認められないというほかはない(前記(ハ)の場合は原審証人小竹惟の証言に徴してもそうである。)。」

同三二枚目表八行目中の「あるから、」を「あることは否定できないが、」と改め、同行中の「競技等につき」から同裏六行目までを全部削除し、「当審証人打田伊三郎の証言によれば、高体連主催の各種大会の審判員は、高校教員のみならず、一般社会人を含め審判業務を遂行するに相応しい知識能力を有する適格者の中から、高体連会長又は専門部長が当該本人に対しこれを委嘱するもので、審判員としての旅費日当も支払われており、校長が教師本来の職務に属するものとしてこれを命ずるものではないと認められる。従つて被控訴人小西旭の明細表2・(1)及び(2)の場合校長の承認をえて右大会の審判として参加したとしても、これを校長が命令したものということはできない(なお被控訴人岡島久司についても審判として高体連主催大会に参加したとする部分があるが、右は同時に出場生徒の引率をもかねており、右引率が校長の命令に基づくものと認めうることは既述のとおりであるから、いずれにしてもこの点は同人の右部分に関する請求に影響を及ぼすものではない。)。」を加える。

同三三枚目表二行目中の「証人」の前に「原審及び当審における」を加え、同九行目中の「第一一号証の二、三」及び同一〇行目中の「第一七号証の四、五」を削除し、同裏一行目中の「第二四号証の一、二」を削除し同行末尾「一二」の次に「第六〇号証の四ないし九及び一三、第六一号証の四、五、六及び八」を加え、同二行目中の「服部要、同」の部分、同行中の「同滝川弘、」及び同三行目中の「同岡島久司、」を削除し、同四行目中の「結果」の次に「並びに弁論の全趣旨」を加え、同六行目中の「認められ」の次に「(但し、被控訴人大西昭の明細表6・(4)の場合を除く。)」を加え、同九行目末尾の「できる。」の後に次の部分を加える。「しかしながら、(イ)被控訴人服部要の明細表5・(1)の場合は、原審における被控訴本人尋問の結果によれば、右当日予定されていた野球部の対外試合(事前に校長の承認を得ていた。)が雨天のため中止となつた後に、被控訴人の自主的判断に基づき部内練習に切換えたものと認められるから、通常クラブ内部の練習試合等は、勤務時間内に行いうるクラブ活動の態様であることを併せ考えると、右は被控訴人が任意行つた自主的活動であるとみるのが相当であり、校長の命令に基づく場合と同様に評価することはできない(これを記載したクラブ指導日誌に後日校長が認印したことをもつて直ちに校長の命令に基づくものとすることはできない。)。(ロ)、被控訴人滝川弘の明細表9・(3)の場合は、当該キヤンプが簿記クラブのクラブ活動との関係でいかなる意義を有するか明らかでなく、本件全証拠によつても校長において特別教育活動として実施すべきものと認めこれを命じたものとは認められない。(ハ)、被控訴人岡島久司の明細表15・(1)及び(2)の場合は、本件全証拠によつてもこれらが校長又は分校主事の命令に基づくものとは認められず、かえつて原審における被控訴本人尋問の結果によれば、右は被控訴人の自主的活動として自校におけるクラブ活動の監督指導にあたつていたものと認められる。なお、前記被控訴人大西の明細表6・(4)の場合は、原審における被控訴本人尋問の結果によつても当該試合が実施されるに至つた経緯も明らかでなく、結局本件全証拠によつてもこれが校長の命令に基づくものと認めることはできないものである。」

同三五枚目表二行目中の「結果」の次に「並びに当審証人庄山一夫の証言」を加え、同九行目冒頭の「すること、」を「するものと認められるけれども、」と改め、同行中の「そして」から同裏一行目までを全部削除し、「右証人庄山一夫の証言及び甲第四九号証によれば、右検定試験の受験は生徒の自由参加によるものであり、検定委員は、連盟の成人代表が三重県下の農業高校のうち、連盟において委嘱対象として選定した学校の校長、農業主任、クラブ顧問等に対しこれを委嘱するものであると認められるから、被控訴人篠田光雄の明細表3・(1)の場合は、もとよりこれを校長の命令に基づきなした職務行為とみることはできないものである。」を加える。

同三六枚目裏一行目から六行目までを全部削除し、「被控訴人滝川弘の明細表9・(4)の場合について検討すると、原審における被控訴本人尋問の結果及び前記甲第一一号証の二、三並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人が付添つたキヤンプは、クラスの生徒の一部二七名が参加して行つたものと認められるが、これが特別教育活動の一環として実施されたものか否か明らかでなく、結局本件全証拠によるも右付添が校長の命令に基づきなされたものと認めるに足りないというのほかはない。」を挿入する。

同裏末行中の「行われた」の次に「同校文化祭行事としての」を、同三七枚目表四行目冒頭の「るが」の次に「(各大会に付添つたことは当事者間に争いがない。)」を、同行中の「右各大会」の次に「のうち、定時制生活体験発表会について」を加え、同七行目末尾「いうべきである。」の次に「しかしながら、被控訴人吉村英夫の明細表11・(1)の場合である右弁論大会についていえば、右証人間瀬良丸の証言及び弁論の全趣旨によれば、右大会は任意参加形式によるもので、参加生徒もごく一部の生徒であると認められるところ同被控訴本人尋問の結果によつても、それがクラブ活動の一環としてなされたものとは認め難く、右付添が教師の職務に関し校長の命令に基づくものと認めるに足りる証拠はない。また、被控訴人福森明允の明細表7・(1)の場合である右英語弁論大会についていえば、同被控訴本人尋問の結果によれば、右付添は、校長から英語科主任に指示があり、同人と相談の結果被控訴人が付添うことになつたものと認められるが、引率した生徒は、他校である名張高校の生徒であつた(弁論の全趣旨によれば当時被控訴人の学校に正規の英語クラブは存在しなかつたと認められる。)というのであるから、これが被控訴人の学校における教科あるいは特別教育活動に関するもの即ち本来の職務に属することがらであると認めることはできない。」を加える。

以上の次第であつて、本件控訴中、被控訴人西出剋已、同小西旭、同篠田光雄、同村林史郎、同服部要、同福森明允、同滝川弘、同吉村英夫、同岡島久司、同大森英明に対するものは全部理由があるから、結局右被控訴人らが取得しうる時間外勤務手当金及び付加金は、原判決が認容した金額から別紙不服申立部分一覧表中の当該被控訴人らに関する部分の金額を控除したものとなり(したがつて右篠田、服部については金額は零となり請求を棄却すべきこととなる。)また一部理由があると認められる被控訴人大西昭については、明細表6・(4)の超勤額一、〇二〇円、同伊豆晃については、明細表8・(8)の超勤額及び付加金各三、四三〇円、同西口光については、明細表10の2記載の超勤額及び付加金のうち各七、五二五円、同小沢利明については、明細表12の1のうち四月分、九月分及び一〇月二一日、同二二日分の超勤額合計一〇、七八四円及び付加金八、〇四〇円、同中筋美代については、明細表13・(2)の超勤額二、八六四円、同吉森茂雄については、明細表14の2、(6)の超勤額及び付加金各二、一五二円を、それぞれ原判決認定額から控除したものとなるところ、これが別紙当審認容額一覧表のとおりとなることは計数上明らかである。しかして、被控訴人長崎拓夫、同伊東格郎に対する本件控訴は理由がないものといわねばならない。

よつて、原判決中被控訴人篠田光雄、同服部要に関する部分を取消し、同被控訴人らの請求を棄却し、同長崎拓夫、同伊東格郎に対する本件各控訴を棄却し、その余の被控訴人らに対する本件各控訴は前認定説示の限度で理由があるから、結局控訴人は右各被控訴人らに対しては、別紙当審認容一覧表合計額欄記載の金員及び内同表時間外勤務手当金欄記載の金員に対する昭和四三年四月一九日(訴状送達の日の翌日)から、内同表付加金欄記載の金員に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきこととなり、右各被控訴人らのその余の請求は失当として棄却すべきこととなるから、原判決中右各被控訴人らに関する部分は右の限度で変更を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、九二条、九三条及び八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上悦雄 上野精 春日民雄)

別紙<省略>

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 被告は、原告らに対し、別紙認容額一覧表の「合計額」欄記載の金員および内同表「時間外勤務手当金」欄記載の金員に対する昭和四三年四月一九日から、内同表「付加金」欄記載の金員に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二 原告らのその余の請求を棄却する。

三 訴訟費用は被告の負担とする。

四 この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一 原告ら

(1) 被告は、原告らに対し、別紙債権目録記載の金員およびこれに対する昭和四三年四月一九日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 被告

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因

(一) 原告らは、いずれも別紙原告目録「勤務校」欄記載の各三重県立学校に勤務し、地方自治法二〇四条、公立学校職員の給与等に関する条例(昭和三〇年三月一七日三重県条例第一〇号、以下単に給与条例という。)に規定する給与を被告から受けている教職員であり、昭和四二年度における給与の月額は、各原告の別紙超過勤務手当明細表(以下単に「明細表」という。)「本俸又は本俸と調整額の合計」欄記載のとおりである。

(二) 原告らは、昭和四二年度において明細表記載の年月日にそれぞれ学校長の指示により、正規の勤務時間外である同表記載の超勤開始時刻から超勤終了時刻まで同表「勤務内容」欄記載の勤務をなし、時間外勤務を行つた。なお、代休ありと記載した分については、同日の勤務に対して代休が与えられている。

そこで、右時間外勤務につき労働基準法三七条一項、給与条例一四条、一八条に基づき時間外勤務手当を計算すると、明細表「超勤額」欄記載のとおりとなる。

(三) しかるに、被告は、右時間外勤務手当を支払つていないから、労働基準法三七条に違反するものである。

(四) よつて、原告らは、被告に対し右時間外勤務手当および労働基準法一一四条、三七条に基づく右手当と同額の付加金とを合算した別紙債権目録記載の各金員およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年四月一九日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 請求原因に対する答弁

(一) 請求原因(一)の事実中、原告らがその主張の学校に勤務し、地方自治法二〇四条および給与条例に規定する給与を被告から受けている教職員であることおよび給与の月額が原告小沢利明の昭和四二年一〇月分ないし一二月分を除き原告ら主張のとおりであることは認める。原告小沢利明の給与の月額は五万二、三〇〇円である。

(二) 同(二)の事実中、別紙超過勤務手当明細表記載の年月日における同表「勤務内容」欄記載の行事の有無、原告らの参加の有無ならびにその時間(行事参加の開始時刻および終了時刻)についての認否は、同表「被告の認否」欄記載のとおりである。原告ら主張の時間外勤務につき学校長が指示したことは否認する。原告福森明允主張の時間のうち一七時二〇分から一七時五〇分までは正規の勤務時間内であり、原告佐藤大雄主張の昭和四二年一一月五日については同月一〇日に代休が、原告木下篤司主張の同月三日については同月六日に特別休暇が、原告菅野良孝の同月四日については同月一四日代休が、原告中條敏主張の同月四日の分については代休が、原告滝川弘主張の同月三日には同月七日に代休がそれぞれ与えられ、原告酒井啓主張の勤務時間の内二一時から二二時までは定時制高校のため勤務時間内である。なお、祝日は時間外勤務手当請求の対象とならない日である。

(三) 同(三)の事実中、被告が原告らに対し時間外勤務手当を支払つていないことは認めるが、その余は争う。

三 被告の主張

(一) 現行法上、地方公務員たる教員に対しては、時間外勤務手当を支給しないという原則がとられているので、被告にその支払義務はない。即ち、

1 市町村立学校職員給与負担法(昭和二三年七月一〇日法律一三五号)の制定に際し、教職員の給与額を一般職員のそれより一割程度増額し、この中に時間外勤務手当を含ませて別個に同手当を支給しないこととしたので、同手当は同法に列挙した諸手当から除外されている。

2 義務教育費国庫負担法(昭和二七年八月八日法律三〇三号)にも時間外勤務手当が規定されていないほか、地方交付税法の基準財政需要額の算定基準の中に教職員に対する時間外勤務手当は計上されておらず、国の予算および財政計画も教職員に対し右手当を支給しない建前で計上算定されている。

3 前記市町村立学校職員給与負担法の一部を改正する法律(昭和三二年六月一日法律一四七号)において、同法一条所定の都道府県の負担する給与として、事務職員に対し時間外勤務手当が新たに加えられたが、右改正法の国会審議において、教職員についてはその給与額を一般職員のそれより一割程度増額されているので、教職員に対し時間外勤務手当を支給しないことを当然のこととしていた。そして、同法一条に列挙した諸手当のうち時間外勤務手当についてのみ「事務職員に係るものとする」と規定されているところからも、同規定は、教職員に対しては時間外勤務手当を支給しないことを宜言したものと解すべきである。

4 原告ら県立の高等学校職員に適用のある前記給与条例一八条は、時間外勤務手当の支給を定めているが、同条例は前記市町村立学校職員給与負担法等に基づいて制定されたものであり、同法一条と同じく、右時間外勤務手当は「事務職員に係るものとする」と解釈するのが正当である。

以上の現行法上の措置は実質的にみても妥当である。即ち、教職員の主たる職務は学習指導要領に従い生徒の教育を行うものであつて、労働時間をもつてこれをはかることが困難な特殊性を有し、又春、夏、冬の休暇中は毎日定刻には出校しないで自宅で時を過したり、平日においても授業が終れば勤務時間中に退出することが少なくないのが勤務の実態であるからである。

(二) 仮に、現行法上、教職員に時間外勤務手当が支給せらるべきものとしても、本件の各場合はいずれも時間外勤務に該当しない。即ち、

1 本件の各時間外勤務をするについて校長の明示または黙示の命令がない。

2 前記給与条例三四条、公立学校職員の勤務時間および休暇に関する規則(昭和三一年三重県教育委員会規則人事委員会規則第三号、以下、単に勤務時間等に関する規則という。)二条によれば、勤務時間は一週間につき四四時間とし、その割り振りは、原則として昼間に授業を行う学校の職員については午前八時三〇分から午後五時一五分(土曜日は午後零時三〇分)までとし、夜間に授業を行う学校の職員については、午後零時一五分(土曜日は午後五時)から午後九時までとされているが、校長は学校運営上の必要がある場合には、右とは別の勤務時間の割り振りをし、他の日に割り振られた勤務時間の繰り替えをし、または勤務を要しない日の繰り替えをすることができるとされており、右は労働基準法三二条二項に規定する変型労働時間制を定めたものと解される。従つて、校長の命令により正規の勤務時間外の勤務をした場合でも、その時間外勤務分については、教職員が通常勤務終了時刻である午後五時一五分まで在校せず、授業時間終了後間もなく帰宅することが許されている実情に鑑みて、この早退時間分や夏期休暇中の自宅待機分との間に勤務時間の割り振りの変更または休日の振り替え等の措置が明示または黙示になされていると解するのが妥当であり、従つて、右通常時間外の勤務はいわゆる時間外勤務に該当しない。

3 時間外勤務に該当しないことを類型別に述べれば、次のとおりとなる。

(1) 遠足および修学旅行の付添について

イ いずれも遠足計画、修学旅行計画作成によつて正規の勤務開始、終了時間を超えて勤務に就くについて、校長が前記(二)の2の勤務時間の割り振りを変更している。休日の場合は前記勤務時間および休暇に関する規則二条五項に基づいて休日の繰り替えをして代休を与えている。

ロ 仮に、右が認められないとしても、遠足および修学旅行の付添勤務は、遠足、旅行スケジユールの円滑進行、生徒の健康、安全の管理、集団生活のルールおよび公衆道徳の遵守等の面から生徒を監視するものの、授業の場合とは異なり、高校生には主体性があり、旅行中の事故発生の危険性も少ないから、専ら高校生の自主的活動および自主的規制を尊重しており、特に車中や旅館内においては、大部分の時間を休養しているか生徒と自由交歓しているのが常であつて、手待時間が多く、付添教師の身体の疲労または精神的緊張度は極めて少なく、労働基準法四一条三号の「監視または断続的労働」に該当し、かつ客観的に同号の許可基準を充足するから同法三二条、三三条、三七条の適用は除外され、超過勤務手当請求権は発生しない。

ハ また、校長が原告らに対し、修学旅行中のいわゆる不寝番を命じたことはなく、原告らが不寝番をしたとすれば、それは原告らが任意にしたにすぎない。

(2) 対外試合およびクラブ合宿の引率等について

イ 対外試合への参加は、生徒の一部に限られているため、全学生の参加を建前とした学校行事や正規のクラブ活動とは異なる。従つて、対外試合への引率は、被告県とは別個の主催団体から教師が個人として委嘱された業務であり、これに対して、原告らが自発的意思に基づき任意に応じてなした行為であるから、教師の職務範囲に属するものとはいえない。クラブが主催する合宿や対外試合についても、正規のクラブ活動は教師の勤務条件改善、生徒の過剰疲労防止、学習との健全な両立の見地から午後五時までに限られるべきであるから、午後五時以降や休日にわたる合宿、対外試合は、正規のクラブ活動に含まれないクラブの任意的活動であり、従つて、これに対する引率も教師の職務範囲に属しない。そして、いずれの場合も右引率指導を校長が命令したことはない。

ロ 仮に、右引率が原告らの職務範囲内のものと認められるとしても、いずれも校長が前記(二)の2の勤務時間の割り振りの変更、休日の振り替えをしている。

ハ さらに、右が認められないとしても、右引率は、前記修学旅行の場合と同様に、いずれも教師の本務に付随する職務であつて、労働基準法四一条三号の「監視または断続的労働」に該当する。

(3) 文化祭、運動会、後夜祭およびそれらの準備等について

イ 文化祭、運動会、体育祭等については、校長が事前に前記条例三四条四項、前記規則二条五項一号に基づき学校行事の必要性から休日の振り替えをしたものであり、いずれの場合も代休日を与えている。従つて、右勤務はいずれも休日労働に該当しない。

ロ 運動会準備は原告らが任意に正規の勤務時間を超えてその業務を行つたにすぎないのであり、また通常生徒が手助けしており、手当を対価とする時間外勤務とは到底評価しえない。

ハ 仮に、右が認められないとしても、校長が右勤務について前記(二)の2の勤務時間の割り振りの変更をしているので時間外勤務に該当しない。後夜祭についても同様である。

(4) 対外試合の審判、技術検定委員について

右はいずれも被告とは別個の団体から対外試合、技術検定の運営のために委任された業務であつて、教師の職務範囲に含まれない。

(5) 職員会議出席、家庭訪問等について

イ 校長は、正規の勤務時間を超過して会議に出席したり、正規の勤務時間外に家庭訪問その他父兄と面接すべきことを原告らに命じたことはなく、原告らが任意に行つたものである。

ロ 仮に右が認められないとしても、校長は前記(二)の2の勤務時間の割り振りの変更をしている。

(三) 仮に、原告ら主張の時間外勤務の各事実が認められるとしても、次に述べるように、信義則に反し、権利濫用となるから、時間外勤務手当請求権は発生しないか、もしくは発生してもその行使は許されない。即ち、

1 原告ら主張の時間外勤務に対しては、殆んどその都度所属校所定の旅費規程に基づき旅費等の実費以外に一定基準の日当が支給され、原告らはこれを時間外勤務手当の対価として承認しており、同手当は請求しないか、あるいは支払わない旨の事実たる慣行が存在していた。しかるに、原告らが本訴において時間外勤務手当を請求するのは、原告ら教員の従来の右態度に対する被告の確定的な信頼を裏切るものである。

2 さらに、原告ら教員に対しては、前述のように、一般公務員よりも給与面で優遇しているので、これにより時間外手当支給の期待は満されている。

(四) 労働基準法一一四条に基づく付加金の支払義務は、裁判所がその支払を命ずることによつて初めて発生するのであるから、その履行遅滞の時期も、右命令以後と解すべきである。

四 被告の主張に対する原告らの反論

(一) 原告ら主張の勤務は、いずれも学校教育法施行規則、高等学校学習指導要領に定められている学校の教科活動、特別教育活動、学校行事の中にふくまれ、学校の年度初めに原告らの校務分掌として定められているものである。そして、校長はさらに右各勤務について事前に命令したか、少なくとも出張命令簿等に押印して承認しており、いずれも校長の明示または黙示の命令に基づきなされたことは明白である。

(二) 被告主張の労働基準法三二条二項の変型労働時間制を適法に採用するためには、勤務時間の割り振り自体によつて予め一日の勤務時間である八時間、一週間の勤務時間である四四時間を超えて勤務させる日ないし週が条例等によつて特定されていなければならず、その都度の校長の指示による勤務時間の変更は、たとえその指示が予めなされたとしても、初めから一日八時間労働の原則を排除しようとするもので違法である。従つて、被告主張の給与条例および勤務時間規則は適法な変型労働時間制を定めたものとはいえない。また、休日の振替についても、予め条例等によつて振替の具体的事由と振替える日とを定め、週休制をそこなわない範囲でなされなければならないから、本件の場合、適法な休日の振替はなされていない。もともと、変型労働時間制は常態として八時間労働制を採りえないような事業に適用されるべきであつて、教員の勤務時間に適用の余地がない。

(三) 労働基準法四一条三号の「監視または断続的労働」とは、通常の勤務が常態として断続的であるものおよび同法施行規則二三条に規定している宿直又は日直の勤務についてであり、教師の通常の勤務および遠足、修学旅行等の付添勤務がこれに該らないことは明らかである。右付添勤務の内容は、生徒に対する教育効果の達成、危険の予防等重大な責任を負担し、日常の勤務と比較にならないほどの不断の緊張と疲労を伴うものであり、被告の主張するような性質のものではないからである。

(四) 不寝番については、修学旅行中の生徒の安全確保のために不可欠なものであり、従つて、毎年の旅行に例外なく実施されており、右旅行計画立案の段階で明示的ないしは黙示的に確認されているのであつて、校長の命令に基づかない任意のものとはいえない。

(五) 対外試合への参加はクラブ活動の一環として実施され、多くの場合、年度初めの職員会議の議を経て参加決定がなされ、そうでない他校との練習試合等についても、事前に校長の承認を得てこれを実施している。

第三証拠<省略>

理由

一 原告らが被告三重県の設置した別紙目録「勤務校」欄記載の各学校に勤務する教職員であり、地方自治法二〇四条、公立学校職員の給与等に関する条例(昭和三〇年三月一七日三重県条例第一〇号)に規定する給与を被告から受けていることは当事者間に争いがない。

二 そこでまず、原告ら主張の行事の有無、原告ら参加の有無ならびにその時間(行事参加の開始時刻および終了時刻)について判断する。

(一) 別紙超過勤務手当明細表「被告の認否」欄中、行事の有無、参加の有無、時間についてすべて認と記載した分(1の(2)、5の(1)ないし(3)、12の(1)、14の(1)、(2)、15の(1)、(2)、(4)、23の(5)ないし(7)、(13)、(14)、27の(2)、37の(1)ないし(7))については、同表記載の年月日に同「勤務内容」欄記載の行事が行われ、同表記載の原告がその主張の時間これに参加したことは当事者間に争いがない。

(二) 同「被告の認否」欄中、行事の有無、参加の有無についてのみ認と記載した分(1の(1)、2の(1)、3の(1)ないし(6)、4の(1)ないし(6)、6の(1)ないし(6)、7の(1)ないし(5)、(7)、(8)、8の(1)ないし(5)、9の(1)ないし(6)、10の(1)、11の(1)、(2)、13の(1)ないし(6)、15の(5)ないし(7)、(9)、(10)、16の(1)、17の(1)ないし(3)、18の(1)、(2)、19の(1)ないし(3)、20の(1)ないし(6)、21の(1)ないし(5)、22の(1)ないし(12)、23の(1)ないし(4)、(8)ないし(12)、24の(1)、(3)ないし(16)、(18)、(19)、(21)、(22)、25の(1)ないし(15)、26の(1)ないし(8)、27の(1)、(3)、28の(1)ないし(24)、(26)、29の(1)、(2)、30の(1)ないし(7)、31の(1)ないし(16)、32の(1)ないし(5)、(7)、33の(1)ないし(13)、34の(1)ないし(9)、35の(1)ないし(9)、36の(1)ないし(7)、38の(1)ないし(6)、39の(1)ないし(8))については、同「勤務内容」欄記載の行事が行われ、同表記載の原告がこれに参加したことは当事者間に争いがなく、右参加従事した時間は、1の(1)につき、原告山村ふさ本人尋問の結果、2の(1)につき証人大杉修の証言により真正に成立したことが認められる甲第一号証ならびに同証人および証人里中武一の証言、3の(1)ないし(6)につき、成立に争いがない甲第二号証の一ないし三および原告西出剋巳本人尋問の結果、4の(1)ないし(6)につき成立に争いがない甲第四五号証および原告宮崎恒一本人尋問の結果、6の(1)ないし(6)につき成立に争いがない甲第四六号証および原告佐藤大雄本人尋問の結果、7の(1)ないし(5)、(7)、(8)につき、成立に争いがない甲第三号証の一ないし七および原告小西旭本人尋問の結果、8の(1)ないし(5)(ただし(3)の内零時から五時までの分を除く。)につき、成立に争いがない甲第四七号証および原告木下篤司本人尋問の結果、9の(1)ないし(6)につき、成立に争いがない甲第四八号証および原告菅野良孝本人尋問の結果、10の(1)につき、成立に争いがない甲第四号証、原告篠田光雄本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第四九号証および同本人尋問の結果、11の(1)、(2)につき、成立に争いがない甲第五号証の一、二および原告村林史郎本人尋問の結果、13の(1)ないし(6)につき、成立に争いがない甲第五二号証および原告中篠敏本人尋問の結果、15の(5)ないし(7)、(9)、(10)につき、成立に争いがない甲第五一号証の一ないし五、乙第一〇号証の一ないし三および原告大市栄夫本人尋問の結果、16の(1)につき、成立に争いがない甲第二四号証の一、二および原告服部要本人尋問の結果、17の(1)ないし(3)につき、成立に争いがない甲第五三号証および原告堀江忠雄本人尋問の結果、18の(1)、(2)につき、成立に争いがない甲第五四号証および原告林太朗本人尋問の結果、19の(1)ないし(3)につき、原告西村一雄本人尋問の結果、20の(1)ないし(6)につき、成立に争いがない甲第五五号証および原告玉木泰雄本人尋問の結果、21の(1)ないし(5)につき、成立に争いがない甲第七号証の一ないし五および原告岡村昌明本人尋問の結果、22の(1)ないし(12)につき、成立に争いがない甲第八号証の一、三ないし五、七ないし一一、原告大西昭本人尋問の結果真正に成立したことが認められる甲第八号証の二、六および同原告本人尋問の結果、23の(1)ないし(4)、(8)ないし(12)につき、成立に争いがない甲第九号証の一ないし三および原告福森明允本人尋問の結果、24の(1)、(3)ないし(16)、(18)、(19)、(21)、(22)につき、成立に争いがない甲第一〇号証の二ないし一三、乙第八号証の一ないし三、原告伊豆晃本人尋問の結果真正に成立したことが認められる甲第一〇号証の一五および甲第四〇号証の一ならびに同本人尋問の結果、25の(1)ないし(15)につき、成立に争いがない甲第一一号証の一ないし四、甲第五八号証および原告滝川弘本人尋問の結果、26の(1)ないし(8)につき、成立に争いがない甲第一二号証の一、二および原告西口光本人尋問の結果、27の(1)、(3)につき、証人間瀬良丸の証言によつて真正に成立したことが認められる甲第二五号証および同証言ならびに原告吉村英夫本人尋問の結果、28の(1)ないし(24)、(26)につき、成立に争いがない甲第五九号証の一ないし一三および原告小沢利明本人尋問の結果、29の(1)、(2)につき、成立に争いがない甲第一四号証および原告中川陸男本人尋問の結果、30の(1)ないし(7)につき、原告中筋美代本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第一五号証の一ないし七および同本人尋問の結果、31の(1)ないし(16)につき、成立に争いがない甲第一六号証の一ないし一二および原告吉森茂雄本人尋問の結果、32の(1)ないし(5)、(7)につき、成立に争いがない甲第一七号証の二、三、原告岡島久司本人尋問の結果真正に成立したことが認められる同号証の一、四、五および同本人尋問の結果、33の(1)ないし(13)につき、成立に争いがない甲第一八号証の一ないし一二、甲第六〇号証の一ないし一三および原告長崎拓夫本人尋問の結果、34の(1)ないし(9)につき、成立に争いがない甲第一九号証の一ないし九および原告伊東格郎本人尋問の結果、35の(1)ないし(9)につき、成立に争いがない甲第二一号証の一ないし九および原告山本明弘本人尋問の結果、36の(1)ないし(7)につき、成立に争いのない甲第二二号証の一ないし四、甲第六二号証の一ないし四および原告大森英明本人尋問の結果、38の(1)ないし(6)につき、成立に争いのない甲第六三号証の一、二および原告酒井啓本人尋問の結果、39の(1)ないし(8)につき、成立に争いがない甲第二二号証の一ないし四および原告森弘幸本人尋問の結果によりいずれも明細表各年月日の「超勤開始時刻」欄記載の時刻から「超勤終了時刻」欄記載の時刻までであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。次に、7の(6)、(9)につき検討するに、原告小西旭が昭和四二年八月一二日および同年一一月二六日高体連主催の軟式野球大会の審判をしたことは当事者間に争いがなく、右審判のほかに試合参加の生徒の付添をしたことを認めるに足りる証拠はないけれども、成立に争いがない甲第三号証の六、八および原告小西旭本人尋問の結果によれば、同原告は昭和四二年八月一二日午後零時高体連主催の軟式野球の審判のため宇治山田高校に行き、同日午後五時試合が終了しグランド整備を終えるまで同校に残つていたこと、同年一一月二六日午前七時桑名高校で開催された高体連主催の軟式野球の審判のため宇治山田駅を出発し、同日午後七時試合が終了しグランド整備を終えるまで同校に残つていたことが認められるので、結局同原告は明細表7の(6)、(9)の「超勤開始時刻」欄記載の時刻から「超勤終了時刻」欄記載の時刻まで審判のため右行事に参加従事していたということができる。なお、8の(3)の内原告木下篤司の零時から五時まで(原告木下篤司の昭和四二年一一月一日の分)については原告木下がその間勤務していたことを確認するに足る証拠がない。

(三) 同「被告の認否」欄中、行事の有無についてのみ認と記載した分(24の(17))については、同「勤務内容」欄記載の行事(運動会準備)が行われたことは当事者間に争いがなく、証人辻本正の証言および原告伊豆晃本人尋問の結果により、同原告は昭和四二年一〇月七日午後一時五分から同日午後七時五分までグランド整理等翌日行われる運動会の準備をしたことが認められる。

(四) 同「被告の認否」欄中、行事の有無について不知あるいは否認と記載した分(15の(3)、(8)、24の(2)、(20)、28の(25)、32の(6))について

1 (15の(3))について 原告大市栄夫本人尋問の結果真正に成立したことが認められる甲第六号証および右原告本人尋問の結果により、原告大市栄夫は昭和四二年四月二〇日午後五時一〇分から同日午後六時二〇分まで生徒指導、ホームルーム運営委員会にクラス担任として出席したことが認められる。

2 (15の(8))について 原告大市栄夫本人尋問の結果真正に成立したことが認められる甲第二六号証および右原告本人尋問の結果によると、原告大市栄夫は昭和四二年一〇月一九日午後五時一〇分から同日午後五時三五分まで生徒指導部の主催で開催された全学年のホームルーム担任者全員の担任会議にクラス担任として出席したことが認められる。

3 (24の(2))について 証人出口健正の証言により真正に成立したことが認められる甲第一〇号証の一四および同証人の証言ならびに原告伊豆晃本人尋問の結果によれば、原告伊豆晃は昭和四二年五月一四日午前七時、伊勢市の県立体育館で行われる三重県高校バドミントン選手権大会兼全国大会県予選に出場する生徒を集合させ、同生徒を引率して右大会に参加し、同日午後五時右大会が終了したことが認められ、右認定に反する証人小竹惟の証言は直ちに信用できず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。

4 (24の(20))について 証人千田軍二の証言により真正に成立したことが認められる甲第四〇号証の三および同証言ならびに原告伊豆晃本人尋問の結果によれば、原告伊豆晃は昭和四二年一一月二六日午前七時津市の県立体育館で行われる三重県バドミントン選手権大会に出場する生徒を集合させ、同選手を引率して右大会に参加し、同日午後五時右大会が終了したことが認められ、右認定に反する証人小竹惟の証言は直ちに信用できず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。

5 (28の(25))について 原告小沢利明本人尋問の結果真正に成立したことが認められる甲第一三号証の六および右原告本人尋問の結果によると、原告小沢利明は昭和四二年一一月二六日午前八時一五分三重県高校庭球新人大会に出場する生徒を集合させ、同生徒を引率して右大会に参加し、同日午後五時同生徒を解散させたことが認められる。

6 (32の(6))について 昭和四二年一一月一九日三重県サツカー新人大会が開催され、原告岡島久司がこれに出場する生徒を引率して右大会に参加したことは、これに副う右原告本人尋問の結果は成立に争いがない甲第一七号証の二に照らし直ちに信用できず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

三 次に、前記給与条例三四条および前記勤務時間等に関する規則二条によれば、一週間四四時間の勤務時間の割り振りは、昼間に授業を行う学校の職員については、午前八時三〇分から午後五時一五分(土曜日は午後零時三〇分)までとし、夜間に授業を行う学校の職員については午後零時一五分(土曜日は午後五時)から午後九時までとする、但し校長はその勤務の態様および内容に応じこれを別に割り振ることができる、日曜日は勤務を要しない日とする、但し、校長は学校運営上必要がある場合は、他の日と繰り替えることができると定められており、原告小西旭本人尋問の結果によれば、三重県立伊勢実業高等学校は定時制高校であり、同校(明細表7)における勤務時間は午後零時五五分から午後九時まで、原告大市栄夫本人尋問の結果によれば、三重県立久居農林高等学校(同15)における勤務の終了時刻は午後五時一〇分、原告林太朗本人尋問の結果によれば、三重県立養護学校(同18)における勤務の終了時刻は午後五時二〇分、原告西村一雄本人尋問の結果によれば、三重県立盲学校(同19)における勤務時間は午前八時一〇分から午後四時五五分まで、原告福森明允本人尋問の結果によれば、三重県立飯南高等学校(同23)における勤務時間は午前八時四〇分から午後五時二〇分まで、原告伊豆晃本人尋問の結果によると、松阪高等学校(同24)における勤務の終了時刻は午後五時五分まで、弁論の全趣旨によると、三重県立宇治山田高等学校(同1)における勤務の終了時刻は午後五時一〇分、三重県立水産高等学校(同5)における勤務の終了時刻は午後四時五五分、三重県立白子高等学校(同13)における勤務時間は午前八時二五分から午後五時一〇分まで、三重県立宮川高等学校荻原分校(同26)における勤務時間は午前八時一五分から午後五時まで、三重県立尾鷲高等学校(同37)における勤務の終了時刻は午後五時であることがそれぞれ認められ(但し、いずれも土曜日は除く)、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はなく、以上の学校に限つて前記規則の定めと若干異つた勤務時間の割り振りをしているものというべきである。従つて、ほかに勤務時間の割り振りの変更が要められない限り、前段認定の行事に参加従事した時間(但し、祝日は除く)はいずれも正規の勤務時間外であるということができる。

なお、原告酒井啓本人尋問の結果によると、同原告勤務の学校は定時制高校であることが認められ、弁論の全趣旨によると、原告吉村英夫勤務の学校は定時制高校であること、右両名のほか原告小西旭を除くその余の原告らは全日制の学校勤務であることが認められ、前記認定の勤務時間を除くその余の原告らの勤務時間は特段の事情が認められない本件においては、前記勤務時間等に関する規則所定の勤務時間と認むべきである。

被告は、原告福森明允主張の勤務時間中、午後五時二〇分から同五時五〇分までは正規の勤務時間であり、また原告酒井啓主張の勤務時間中、午後九時から同二二時までは勤務時間である旨主張するけれども、前記認定を覆し、これを確認するに足る証拠はない。

四 ところで、被告は、現行法上地方公務員たる教員に対しては時間外勤務手当を支給しないという原則がとられていると主張するので、まずこの点について判断する。

市町村立学校職員給与負担法および義務教育費国庫負担法は、教職員に対する時間外勤務手当につき何らの規定をも設けておらず、市町村立学校職員給与負担法一条は、同条に列挙された諸手当のうち時間外勤務手当に限つて「事務職員に係るものとする」と規定しているけれども、右各法律はいずれも規定から明らかなように、公立の義務教育諸学校の経費あるいは市町村立の小学校等の職員の給与の負担者を定めているにすぎないものであつて、教職員の時間外勤務手当請求権の有無については何ら規定していないし、また、教職員の給与額が被告主張のように一般職員の給与よりも増額されているとしても、右措置が時間外勤務手当を支給しないことのみかえりであることが法令上明確にされているわけではなく、教職員の職務は、職務の性質上機械的に勤務時間でもつて計りがたい面を有することは否定できないにしても、教職員といえども無定量の職務専念義務を負うものではないし、教職員が現実にした時間外勤務の時間を明確にすることが不可能ではないので、教職員の右職務の特殊性を理由に、直ちに時間外勤務手当請求権を否定しなければならないものではない。従つて、たとえ前記法律が教職員に時間外勤務手当請求権が存在しないことを前提に立法され、あるいは地方交付税法の基準財政需要額の算定基準の中に教職員に対する時間外勤務手当が計上されておらず、国の予算および財政計画にも右手当を支給しない建前で計上算定されているとしても、地方公務員法上教職員に対しても労働基準法三七条が適用されることとされている以上、教職員の時間外勤務手当請求権を否定することはできない。従つて、また給与条例一八条に規定する時間外勤務手当についても事務職員に限ると解釈することはできない。

五 そこで、原告らが前記認定の明細表記載の日時に同「勤務内容」欄記載の行事に参加したことが原告ら教職員の職務の範囲に属し、校長の明示又は黙示の命令に基づくものであるか否かについて検討する。

(一) 遠足および修学旅行の付添、運動会、体育祭、文化祭について

学校教育法施行規則五七条、五七条の二の規定に成立に争いがない甲第三七号証および証人山本正和の証言を合わせ考えると、右掲記の原告ら主張の行事は各教科、科目等とあいまつて高等学校教育の目標を達成するため教育活動の一部として学校が年間を通ずる計画のもとに実施するものであることが認められ、右事実に徴し、特段の事情のない限り、同行事に参加することは教師の職務であるとともに校長の命令に基づくものといわなければならない。

1 原告山村ふさ本人尋問の結果によれば、原告山村ふさの付添つた昭和四二年一一月一一日の遠足は計画どおり午前七時三〇分集合、午後七時一〇分解散になつたものであることが認められ、右事実に前記五の冒頭の認定事実を合わせ考えると、右は校長が正規の勤務時間よりも早く、あるいは超過して右勤務に就くことを命じたものというべきである。

2 成立に争いがない甲第三五号証の一ないし一二、同第四五ないし第四八号証、第五〇号証、第五二ないし第五五号証、証人丹羽武(後記措信しない部分を除く)、同山本正和の各証言ならびに原告宮崎恒一、同佐藤大雄、同木下篤司、同菅野良孝、同中條敏、同堀江忠雄、同林太朗、同西村一雄、同玉木泰雄、同滝川弘、同西口光、同酒井啓の各本人尋問を総合すると、右原告宮崎、同佐藤、同木下、同菅野、同中條、同堀江、同林、同西村、同玉木、同滝川、同西口、同酒井らのいずれの場合においても、修学旅行は予め学校において行先地、日程、参加人員、付添教員、旅費等を計画し、教育委員会の承認を得て実施されるが、その際付添教師は、生徒が修学旅行の目的を達成し、安全に旅行を終えるため、教師の起床時刻から就寝時刻まで生徒の指導、監督を行うとともに、生徒の危険防止、健康管理等に万全の注意を払うことが要請されていること、又船、車中泊の際は従来から生徒の事故防止、規律の維持等の必要から付添教師の中から不寝番を決め夜通し船車中を見廻つており、本件の各場合(明細表4の(1)、(5)、6の(1)、(2)、(5)、(6)、8の(5)、9の(1)、(5)、13の(1)、20の(1)、(5)、25の(14)、26の(1)ないし(5)、38の(1)、(5))においても不寝番をすることが当然必要なこととされていたことが認められ、右事実に前記五の冒頭の認定事実を合わせ考えると、校長は付添教師に対し教師の起床時刻から就寝時刻までの間右勤務に就き、船、車中泊の際は不寝番をすることを命じたものというべきであり、右認定に反する証人丹羽武の証言は採用するをえない。

(二) 高校体育連盟等主催の各種大会の選手引率、付添について

成立に争いがない甲第二七ないし第三二号証、第三三号証の一ないし一〇、第三四号証、前記甲第三七号証および証人打田伊三郎の証言ならびに原告伊東格郎本人尋問の結果によれば、三重県高等学校体育連盟は、高校におけるスポーツの健全な発展を目的として県下の各高校によつて組織され、教育長が顧問、校長、教職員が理事、専門部長等の役員に就き、経費は高校生徒の負担金および県からの補助金によつてまかなわれ、高校生の対外競技のため諸体育大会を開催することを主たる事業とする団体であり、右大会は前記役員によつて教育的に企画運営され、正課の体育、校内競技、特別教育活動であるクラブ活動と密接な関連を有すること、そして教職員が右大会に参加する選手を引率し付添うことは右大会参加の教育効果を高めるとともに、参加選手の事故防止等のため必要であることがそれぞれ認められる。ところで、教師は学校における教科、特別教育活動および学校行事等に関する教育を掌るものであり、従つて右と密接な関連を有する限り、たとえ高体連が被告県とは別個の団体であつても、右大会参加の選手を引率し付添うことは教師の職務の範囲に属するというべきである。このことは、三重県高校体育連盟の上部団体である東海高校体育連盟、全日本高校体育連盟あるいは右高体連以外の高校野球連盟、庭球協会、ハンドボール協会、水泳協会、県陸上協議会、上野市教育委員会等主催の大会であつても、校長が右大会に参加することに教育的意義を認めて参加の承認をしている限り、前記高体連主催の場合と同様に参加選手の引率、付添は教師の職務に入ると解すべきである。

そして、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし四、六ないし八、第四号証、第五号証の一、二、第七号証の一ないし五、第八号証の一、三ないし五、七ないし一〇、第九号証の一ないし三、第一〇号証の二ないし六、八ないし一三、第一一号証の二ないし四、第一二号証の一、二、第一三号証の二ないし五、第一四号証、第一六号証の一ないし一二、第一七号証の二、三、六、第一八号証の一ないし一二、第一九号証の一ないし九、第二〇号証の一ないし八、第二一号証の一ないし九、第二二、第二三号証の各一ないし四、第五九、第六〇号証の各一ないし一三、第六一号証の一ないし九、第六二号証の一ないし四、原告大西昭本人尋問の結果真正に成立したことが認められる甲第八号証の六、第五六号証の一ないし四、同中筋美代本人尋問の結果真正に成立したことが認められる甲第一五号証の一ないし七、同岡島久司本人尋問の結果真正に成立したことが認められる甲第一七号証の一、四、五、同吉村英夫本人尋問の結果真正に成立したことが認められる甲第一三号証の六、前記甲第二七号証ならびに原告西出剋己、同小西旭、同村林史郎、同岡村昌明、同大西昭、同福森明允、同伊豆晃、同滝川弘、同西口光、同小沢利明、同中川陸男、同中筋美代、同吉森茂雄、同岡島久司、同長崎拓夫、同伊東格郎、同山本明弘、同大森英明、同森弘幸各本人尋問の結果によれば、前記各大会はいずれも校長宛に大会案内状が送付され、校長が同大会参加の教育的効果を認め、原告西出剋己、同小西旭、同村林史郎、同岡村昌明、同大西昭、同福森明允、同伊豆晃、同滝川弘、同西口光、同小沢利明、同中川陸男、同中筋美代、同吉森茂雄、同岡島久司、同長崎拓夫、同伊東格郎、同山本明弘、同大森英明、同森弘幸らに大会参加の選手を引率し付添うことを事前に命じ、あるいは事後に承認していることが認められ、右認定に反する証人庄山一夫、同小亀定一、同打田伊三郎の各証言はにわかに採用するを得ず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。従つて、右各大会参加選手の引率、付添はいずれも校長の命令に基づくものというべきである。

(三) 前記高校体育連盟主催の大会の審判について

高校体育連盟主催の大会は、前記五の(二)において認定したように校長、教職員等の役員によつて教育的配慮のもとに計画、運営され、学校体育教育、クラブ活動等と密接な関連を有するものであるから、競技等につき審判をすることは大会運営上不可欠のことであり、右は教員の職務の範囲に入るというべきであり、前記甲第三号証の一ないし四、六ないし八、甲第一七号証の一、二、六および原告小西旭、同岡島久司各本人尋問の結果によれば、校長は原告小西旭、同岡島久司に対し右大会の審判をすることを承認していることが認められ、右事実に照らし、右審判は校長が命令したものということができ、これに反する証人庄山一夫、同小亀定一、同打田伊三郎の各証言は採用するを得ず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

(四) クラブ主催の練習試合への生徒引率、付添、クラブ合宿(キヤンプ)指導について

前記甲第三七号証によると、クラブ活動は学校の特別教育活動として生徒の自発的な活動を助長することをたてまえとし、右活動は常に教師の適切な指導が必要であり、その実施にあたつては学校の事情に応じ適当な時間を設けて計画的に実施することが要請されており、証人庄山一夫の証言によると、右活動の実施は原則として教師の勤務時間内に限られるべきことが認められる。しかしながら、他校との練習試合、クラブ合宿等は教師の勤務時間外に行わざるを得ず、それらがクラブ活動として必要かつ有益なものである限り、同試合参加の生徒の引率、付添およびクラブ合宿指導等は教師の職務に属するというべきであり、前記甲第八号証の一、五、七、第一〇号証の六、七、第一一号証の二、三、第一五号証の三、第一六号証の一、五、一二、第一七号証の四、五、第一八号証の四、六、八、一二、第一九号証の四ないし六、八、第二一号証の九、第二四号証の一、二、第五九号証の一〇、一二、原告服部要、同大西昭、同伊豆晃、同滝川弘、同小沢利明、同中筋美代、同吉森茂雄、同岡島久司、同長崎拓夫、同伊東格郎、同山本明弘の各本人尋問の結果によれば校長が各原告の引率、付添、クラブ合宿指導等をいずれも承認している事実が認められ、右認定に反する証人庄山一夫の証言は前記証拠に照らして信用するを得ず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。従つて右練習試合の引率、付添、クラブ合宿指導等は校長がいずれも命令したものということができる。

(五) 生徒指導について

前記甲第一号証および証人大杉修、同里中武一(措信しない部分を除く)の各証言によれば、原告中田稔は、当初昭和四二年一二月二三日(土曜日)の午前中同原告の担任でかねてから問題のあつた生徒を母親同席のもとに指導しようとしたが、母親の来校が遅れ、しかも同生徒もその場に列席させたほうがよいということで、校長とも相談のうえ同生徒を呼び出したりして手間取り同日午後四時頃から午後六時一五分頃までの間校長室に於て校長、母親同席のもとにその指導が行われたものであることが認められる。従つて、同日午後五時一五分以降六時一五分までの間の生徒指導は同原告の職務に属し、校長が同席し右勤務時間外にわたる指導を承認している以上、校長の命令に基づくものというべきであり、右認定に反する証人里中武一の証言は採用できない。

(六) 家庭訪問について

前記甲第五号証の二、第二一号証の一、六、七および原告村林史郎、同山本明弘本人尋問の結果によると、原告村林史郎、同山本明弘のした家庭訪問は、いずれも父兄が夜間しか在宅しないか、あるいは長時間の指導を要する等の理由から、勤務時間外に生徒指導に関し父兄と懇談するため行われたものであること、そしていずれも校長の承認を得ていることが認められるので、原告村林史郎、同山本明弘のした右各家庭訪問は、同原告らの職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

(七) 農業クラブ上級位検定試験委員について

前記甲第四九号証および原告篠田光雄本人尋問の結果によると、右検定は、三重県学校農業クラブ連盟が主催したものであるが、同連盟は県下の農業科のある高等学校の農業クラブによつて組織され、経費は生徒の負担金および農業教育振興会からの補助金によつてまかなわれている団体であり、教科外活動である農業クラブ活動の成果を試験するため検定を行うものであつて、同検定は右教科外活動と密接な関連を有すること、そして校長は右検定に不可欠な試験委員になることを承認していることがそれぞれ認められるので、右試験委員としての活動は教師の職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

(八) ホームルーム生徒指導委員会、担任会について

前記甲第六号証、第二六号証および原告大市栄夫本人尋問の結果によると、原告大市栄夫は昭和四二年四月二〇日および同年一〇月一九日ホームルーム生徒指導委員またはホームルーム担任者としてホームルームの運営等に関し開催された会議に参加したが、当日の同会議の進行上やむをえず同原告の勤務時間外にまで続行されたこと、そして事後に校長の承認を得るなり、または予定された学校行事として実施したものであることが認められるので、右勤務時間外にわたる各会議に参加したのは同原告の職務に属し、校長の命令に基づくものということができる。

(九) 校内就職模擬試験監督について

証人福田紀生の証言により真正に成立したことが認められる甲第一〇号証の一五および同証言ならびに原告伊豆晃本人尋問の結果によれば、右模擬試験は同原告の所属する三重県立松阪高等学校が職員会議の決定を経て就職を希望する同校の生徒を対象に昭和四二年五月二七日その実力を判定するために実施したものであることが認められ、右事実によれば、右試験監督は原告伊豆晃の職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

(一〇) クラスキヤンプ付添について

前記甲第三七号証、第一一号証の一、二および原告滝川弘本人尋問の結果によると、原告伊豆晃は昭和四二年八月五日クラスのキヤンプに付添つたのであるが、右はホームルーム活動として生徒二七名が参加して行われ、校長が同原告の付添参加を承認したことが認められるので、右は同原告の職務に属し、校長の命令に基づくものということができる。

(一一) 弁論大会、定時制生活体験発表会付添について

成立に争いがない乙第九号証、証人間瀬良丸、同森隆已の証言および原告吉村英夫、同福森明允各本人尋問の結果によると、原告吉村英夫は昭和四二年一〇月二九日松阪高等学校において行われた三重県下高等学校弁論大会および同年同月二二日行われた定時制通信教育振興会主催の定時制生活体験発表会に、原告福森明允は同年六月二五日松阪女子短大主催の英語弁論大会にそれぞれ参加する生徒に付添つたものであるが、右各大会は学校の教科あるいはクラブ活動と密接な関連を有し、右参加について事前もしくは事後に校長の承認を得ていることが認められるので、右付添は教師の職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

(一二) 新聞部記事取材、新聞校正について

前記甲第二一号証の二ないし四、八および原告山本明弘本人尋問の結果によると、原告山本明弘は新聞部のクラブ顧問であるが、昭和四二年五月一四日、同年六月一一日、同月一七日および同年一〇月一四日同部加入の生徒とともに勤務時間外にクラブ活動としての新聞記事取材あるいは新聞校正を行わざるを得なかつたこと、そして校長はこれを承認したことがそれぞれ認められるので、右は同原告の職務に属し、校長の命令に基づくものということができる。

(一三) 運動会準備、後夜祭監督について

証人辻本正の証言および原告伊豆晃本人尋問の結果によると、原告伊豆晃は昭和四二年一〇月七日午後学校行事として行われた同月八日の運動会の準備のため生徒とともにグランドの整備、テント張り等をしたものであり、校長は勤務時間外にわたつても右準備を完了するように命じていたこと、そして、同月八日運動会が行われたが、後夜祭は毎年運動会終了後行われており、運動会に付属するものであること、そして校長が教師にその監督を命じたことがそれぞれ認められるので、右は同原告の職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

また同年一〇月二九日文化祭が行われたことは前記認定のとおりであるが、文化祭が学校行事の一環として行われるものであることは推認するに難くなく、以上の事実によれば、右行事は同原告の職務に属し、かつ校長の命令に基づくものというべきである。

(一四) 職員会議出席について

職員会議は、校長が教員らを招集し、校長主宰のもとに学校運営上の諸問題の審議、行事計画の確定、学校事務の連絡、報告等を行う会議であつて、右会議出席は教師の職務に属することは顕著な事実であり、校長が正規の勤務時間の終了時刻になつても右会議を終了させない限り、引き続き教員らに右会議に出席すべきことを命令したものということができる。しかして、前記原告らが勤務時間を超えて職員会議に出席した事実によれば、本件の各場合いずれも校長が勤務時間外に右会議を続行したものと推認すべきであるから、同会議出席は校長の命令に基づくものというべきである。

(一五) 農業部会出席について

成立に争いがない甲第五一号証の一ないし三および原告大市栄夫本人尋問の結果によれば、右会議は学校内において農場専門科目担当教師でもつて農場の運営、教科の指導等に関し協議するものであること、そして昭和四二年四月一四日、同年五月一五日、同年七月四日および同年一一月一〇日の各会議は議事の進行上やむをえず勤務時間外にわたつて続行され、校長が黙示的に承認していたことがそれぞれ認められる。従つて勤務時間後の右会議出席も校長の命令に基づくものというべきである。

よつて、前記原告らが右認定の明細表記載の日時に同「勤務内容」欄記載の勤務をしたことがいずれも原告ら教職員の職務の範囲に属し、校長の明示または黙示の命令に基づくものというべきである。

六 次に、被告は以上の勤務に対しては、学校運営上の必要から勤務時間の割り振りの変更、休日の振り替えをし、労働基準法三二条二項に規定する変型労働時間制に基づく措置をしていると主張するので、この点について判断する。

給与条例三四条、勤務時間等に関する規則二条によれば、校長は通常の日課にない特別の行事等を学校全体が行う場合その他正当な理由がある場合には、勤務を要する日とする日曜日の属する週の間において他の日と繰り替えることができる旨規定し、また、校長は学校運営上必要ある場合は、土曜日に割り振られた勤務時間を当該土曜日の属する週の間において他の日に割り振られた勤務時間と繰り替えることができる旨を規定するところ、原告宮崎恒一につき昭和四二年一〇月二九日、同菅野良孝、同中條敏、同玉木泰雄につき各同年一一月五日、同伊豆晃につき同年一〇月八日、同月二九日、同滝川弘につき同年六月四日、同年一〇月二九日、同吉村英夫につき同年一〇月八日、同山本明弘につき同年五月一四日の勤務を要する日とする各日曜日の正規の勤務時間内に行われた勤務に対してはそれぞれ他の日を代休として与えられていることは右原告らの認めるところであり、右事実によれば、右代休は校長が前記勤務時間等に関する規則により、勤務を要しない日の繰り替えを行つたものというべきであり、原告菅野良孝本人尋問の結果によると、原告菅野良孝につき同年一一月四日の土曜日の正規の勤務時間内に行われた勤務に対し同月二日に代休をとつたことが認められ、右事実によれば、右同様校長が勤務を要しない日の繰り替えを行つたものというべきであり、従つて、右日曜日または土曜日の正規の勤務時間内に行われた勤務は時間外勤務に該当しないので、右時間は超勤時間から差引くべきである。

なお、被告は、原告中條敏の勤務した昭和四二年一一月四日(土曜日)につき代休を与えた旨主張するけれども、これを確認するに足る証拠はなく、原告佐藤大雄が勤務した同月五日につき同月一〇日に代休を与えた旨主張するが、仮にそうだとしても、同原告らが正規の勤務時間中のものにつき時間外勤務手当の請求をしていないことは主張自体明らかであるから、被告の右主張については判断の要はない。

次に、被告は休日は時間外勤務手当が支給されないと主張するけれども、給与条例一九条によれば、休日(国民の祝日に関する法律に規定する祝日を含む。)において正規の勤務時間中に勤務が命ぜられた場合は時間外勤務手当と同額の休日勤務手当が支給されることになつており、原告らの時間外勤務手当の請求も右休日勤務手当の請求を含んでいると解せられるので、被告の右主張は理由がないけれども、同条二項は、右休日に勤務した代りに他の勤務を要する日に特別休暇が与えられた場合は、右休日勤務手当は支給しない旨を定めているので、原告らがした休日勤務に対して右特別休暇が与えられたかどうかについて検討する。

原告菅野良孝、同玉木泰雄の昭和四二年一一月三日、同山本明弘の同年一一月二三日の各休日勤務に特別休暇(代休)が与えられたことは同原告らの認めるところであり、また前記甲第一一号証の一および原告滝川弘本人尋問の結果によれば、原告滝川弘は同月三日の休日勤務に対し、同月七日に特別休暇が与えられていることが認められるので、右時間は超勤時間から差引くべきである。なお、被告は原告木下篤司が勤務した同月三日については、同月六日に特別休暇が与えられた旨主張するが、仮にそうだとしても、同原告が正規の勤務時間中の分につき時間外勤務手当の請求をしていないことは主張自体明らかであるから、被告の右主張は判断の要はない。

しかしながら、右勤務を要しない日あるいは休日の振り替えを認定した以外の前記認定の各時間外勤務に対して校長があらかじめ勤務時間の割り振りの変更をした事実を認めるに足りる証拠はなく、教師が平常特別の用務のない限り正規の勤務時間終了前に帰宅したり、夏期等休業期間中に出校しないことが許されているとしても、右は自宅研修をする等教師の職務の特殊性から是認されているにすぎず、右時間が勤務を要しない時間となつているものではないから、これをもつて勤務時間の割り振りの変更があつたものとみなすこともできない。従つて、前記振り替えを認定した以外の時間外勤務については、勤務時間の割り振りの変更をしたとする被告の主張は採用することができない。

七 次に遠足、修学旅行、対外試合等における生徒の引率、付添勤務が労働基準法四一条三号の「監視または断続的労働」に該当するか否かについて検討するに、右引率または付添勤務の内容は、修学旅行の付添について前述したように、付添教師は絶えず生徒の行動を掌握し、危険防止、健康管理等に細心の注意を払うとともに、遠足、修学旅行、対外試合参加についてはその教育目的が達成されるよう生徒の指導、監督を行つているのであつて、車中や旅館においても付添教師の右注意義務等が軽減されるものではなく、被告主張のように車中や旅館においては大部分の時間を休養したり、生徒と単なる自由交歓している事実を認めるに足りる証拠はないので、右付添勤務は前記「監視または断続的労働」に該当するものということはできない。

八 次に、原告らの本件時間外勤務手当の請求が信義則に反したり権利濫用となるかどうかについて判断する。

成立に争いがない乙第一二号証の一ないし一七によれば、各高等学校は、旅費規程を設け、教職員が生徒の引率、付添等で出張した場合、運賃、宿泊料の外に一〇〇円ないし五〇〇円程度の日当が支給されていることが認められるけれども、右日当が時間外勤務に対する対価とは到底認められないところ、仮に原告が従来右日当の支給を受けたことにより、時間外勤務手当を請求しなかつたとしても、右請求権を放棄していたものと解することはできず、また被告に対し同手当を請求しなかつたことをもつて、直ちに時間外勤務手当を支給しない旨の事実たる慣習が成立していたとすることもできないのみならず、仮にしからずとしても、労働基準法および給与条例で定める時間外労働に対する割増賃金の支払は公の秩序に関するものであるから、これに反する慣習は無効というべきである。また教職員に対し一般職員よりも給与面で優遇しているとしても、これが時間外勤務手当を支給しないことのみかえりであると断定できないことは前述したとおりである。

従つて、原告らの被告に対する本訴請求が信義則に反したり、権利の濫用となるということはできない。

九 そこで、原告らのそれぞれの時間外勤務手当額を算出することとする。

原告らの給与の月額が原告小沢利明の昭和四二年一〇月ないし一二月分の給与を除き、明細表「本俸または本俸と調整額の合計」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、同原告の同年一〇月ないし一二月の給料の月額が五万四、六〇〇円または被告が認める五万二、三〇〇円を超える額であることを認めるに足りる証拠がないので、同原告の右期間の給料月額は被告の認める限度の五万二、三〇〇円と認めるのほかない。

そして、以上認定の事実によれば、原告らの月別超過勤務時間は別紙認定額明細表の超過勤務時間欄記載のとおりとなる(但し、括弧内は除外)。

右手当の算出方法は、前記給与条例二八条、一八条によれば、次のとおりとなる。

(1) 勤務一時間当りの給与額

給料の月額×12/44(1週間の勤務時間)×52

但し、一円未満は切り捨て(同条例二七条の二)

(2) 時間外勤務一時間当りの手当額

(1)において求めた金額×125/100

午後一〇時から翌日の午前五時までの間である場合

(1)において求めた金額×150/100

但し、一円未満の端数は切り上げ(右二七条の二)

(3) 各月当りの時間外勤務手当

(2)において求めた金額×当月全時間外勤務時間

但し、一時間に満たない端数のあるときは三〇分以上は一時間とし、三〇分未満は切り捨てる。(公立学校職員の給料および手当の支給に関する規則一二条の二)

右方式に従い原告らの割増賃金を計算すると、各金額は別紙認定額一覧表時間外勤務手当金欄記載のとおりとなり(なお、付言するに、原告ら主張の一時間当りの超勤単価は、右(1)の計算に際し、端数を切り上げて算出しているが、右端数は切り捨てるべきものであることは右説示のとおりである。)、被告は原告らに対し、右割増賃金を支払う義務があるものといわなければならない。

一〇 次に、付加金の請求について判断する。

労働基準法三七条一項は、使用者が一日について八時間の労働時間を延長し、もしくは同法三五条にいう休日に労働させた場合または午後一〇時から午前五時までの間に労働させた場合においては通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の二割五分以上の割増賃金を支払うことを規定している。

ところで、前記給与条例三四条、勤務時間等に関する規則二条によれば、教職員の勤務時間は一週間について四四時間と定められ、そのうち校長が学校運営上の必要から別の割り振りをしない限り土曜日に四時間が割り振られており、各学校において校長が右と異つた割り振りをしたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、土曜日に正規の勤務時間を超えて勤務しても一日八時間以内の勤務になる場合および労働基準法三五条にいわゆる毎週少くとも一回の休日以外の国民の祝日に関する法律所定の祝日に勤務した場合は、前記給与条例に基づく時間外勤務手当および休日勤務手当の請求をすることができても、労働基準法三七条一項に基づく割増賃金の請求はできないので、被告が原告らに対し、土曜日の正規の勤務時間を超えて勤務した勤務時間にして八時間以内のものおよび前記祝日の正規の勤務時間内のものにつき割増賃金を支払わなかつたとしても、被告は同条に違反せず、従つて、その限度においては、割増賃金不払いを理由とする付加金の請求は理由がないものといわなければならない。

そこで、原告らの各月の超勤時間から右説示にかかる土曜日の八時間の超勤時間および祝日の正規の勤務時間を差引いて各月の勤務時間を算出すると別紙認定額明細表の超勤時間欄の括弧をもつて表示したものとなり(但し、時間に変動のないものは従前どおり。)、労働基準法三七条一項に違反する割増賃金の額は計算上同明細表の付加金額欄記載のとおりとなる。

しかして、被告が原告らに対し、右割増賃金の支払をしていないことは当事者間に争いがなく、被告が労働基準法三七条に違反していることは明らかであるので、当裁判所は被告に対し、付加金として別紙認容額一覧表記載の付加金欄の金員の支払を命ずることとする。

なお、右付加金の支払義務は裁判所の命令によつて初めて発生するものと解すべきであるから、被告は裁判所の支払を命ずる判決が確定した日の翌日から遅滞におちいるものというべきである。

一一よつて、原告らの本訴請求は、被告に対し別紙認容額一覧表「時間外勤務手当金」欄および「付加金」欄記載の金員の合計額である同表「合計額」欄記載の金員および右の内「時間外勤務手当金」欄記載の金員に対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかなる昭和四三年四月一九日から、右の内「付加金」欄記載の金員に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容すべきであるが、その余の請求は理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

別紙<省略>

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